ここでは、私の一風変わった経営理念をご紹介しましょう。
開業当初、私はかなり病んでいました。
何せ、大借金を抱えてようやく開業したものの、患者さんが全く来ないのです。
一日中待っても一人も来ない日もありました。
そもそもこの開業地選定は10年後を見越したもので、当時のこの地域の状況では、
立ち上がりの苦戦は当然であり十分に予測はしていました。
患者さんが来なくても、家賃や人件費などの経費がかかります。借金の返済もあります。
そのために運転資金なるものを用意して、それを切り崩しながら耐え忍ぶわけですが、
それが尽きた時点で、ジ・エンドです。
また、歯科の世界では一生勤務できるような職場は本当に少ないのです。大多数の歯科医はある程度の年齢
になると、危険を承知で開業するしか道がないのです。日本において歯科医院の数が異常に多いのは、
こういった事情によるものです。つまり開業の失敗は歯科医としての終焉を意味します。
恐恐恐恐!!!!
恐かった‥‥本当に恐かったです。
恐いが故に、様々な行動を起こしました。黙って待つなんてできなかったのです。
しかし、何の結果も出ませんでした。それどころか、妻やスタッフに己の器の小ささを露呈することとなりました。
私は経営が安定した後、その当時を振り返り、総括しました。
恐怖という感情に駆られ、行動する。その行動が結果を生む。つまり結果の始まりは感情です。
この場合、恐怖に始まり、恐怖による行動を行い、自己評価を下げるという結果が生まれた訳です。
ということは、良い結果を求めるには、その行動の元となる感情が重要ということになります。
例えば車を運転していて、強引な割り込みをされたとします。
気にしない人もいれば、怒る人もいるでしょう。
湧き出る感情や、それによる行動は人それぞれですが、極端な人は怒りにかられて煽り運転をして、最終的に
事件に発展するかもしれない訳です。
つまり、良い結果を得るためには、自身の感情特性や、それに伴う行動傾向をあらかじめ知っておく必要
があります。
私は開業当初の己の愚行を反省し、今後に生かすべく、それを体系化しようと考えたのです。
それは様々なエピソードに伴う感情、行動、結果を記録し、総括するという地道な作業でした。
そして時が流れ、やがて「自分学」とも言える一つの学問体系ができあがりました。
データやその考察は実にノート30冊以上にのぼります。
そして、一つの宇宙的真理にたどり着いたのです。それは循環です。
地球にはあらかじめ決まった量の元素(=エネルギー)が存在し、それらが循環することにより成立しているのです。
例えば、53年前に私は存在していませんでした。それが母が妊娠し、地球の元素により構成された
食物を摂取し、それらの元素の一部が集まり、母の体内で徐々に私の体が形成されます。
生まれた後、私は地球由来の元素を食物という形で体内に取り込み、成長していきます。
やがて私は死に、私の体を構成する元素は土に還り、そして地球上でその後も循環していくのです。
地球上には大小様々な循環が存在し、それらは複雑に関係し合っているのです。
私は毎日患者さんを治療して、治療費を得ます。そのお金の一部はスタッフの給与になります。
スタッフはそのお金で服を買います。そしてそのお金は服屋さんの売り上げになり、その一部がその店の
スタッフさんの給与になります。これはお金の循環で、人間の世界では経済と呼ばれています。
要は自分がどのような循環に関わっているのかを意識し、自分の役割を果たすことだけを考える。
それだけで結果は付いてくることに気付いたのです。利他の精神です。
この場合の他というのは、人間だけではなく、あらゆる存在を指します。
ところが人間は、「今だけ、金だけ、自分だけ」みたいな人がいかに多いことか。
今だけ、金だけ、自分だけ は全て地球の循環を止める行為です。それは地球にとって都合の悪い存在です。
ですのでこの地球に生きる以上、事がうまく運ぶわけがないのです。
このことを理解すると、そもそもネガティブな感情は劇的に減少します。他人と比較する必要がなくなるからです。
そして、利他という地球にとって都合の良いポジティブな感情はポジティブな行動を生み、
ポジティブな結果をもたらします。
開業当初の私の苦労。それは私自身がエゴにまみれた人間であったことによるものです。
口では格好の良いことを言いながら、つまるところ自分のことしか考えていなかった。
幸いだったのはそのことに気付き、修正し、地球の一部として、ただただ循環させる、そういったポジティブな
スパイラルに乗ることができたことです。
そうなると、必要なものは無理に求めなくても、地球の方から適切な時期に自然に与えられるようになります。
全てが自然にうまくいくため、もはや経営上の細かい数字を見なくても良くなります。
何も考えなくても良いのです。実に素晴らしい。
これが私の経営学です。
以上。